[その他]
研究代表
 大阪市立大学 平成13年度 特定研究(C)奨励費 159万円
「ダイオキシン類の微量検出および起源分子のレーザー化学」
研究成果
学術論文
学会発表
2001年 CLEO Pacific Rim2001(千葉) 発表者 原田
2001年 光化学討論会(金沢) 1件 発表者 原田(口頭)
2001年 分子構造総合討論会(札幌) 1件 発表者 原田(口頭)
2002年 日本化学会春季年会(新宿) 2件 発表者 田中(口頭)、村上(口頭)
平成13年度 特定研究奨励費C実績報告書より抜粋
ダイオキシン類(有機塩素化合物)に代表される微量化学物質による環境汚染への対策は近年の緊急の課題である。この問題の解決には社会的、科学的両面から進める必要がある。本研究では後者、理学的立場から問題の解決に向けて基礎データを提供することを目的とした。解決すべき問題点としては微量検出、生成過程の解明、分解・処理がある。言い換えると1)有機塩素化合物のフェムト秒レーザーを用いた微量・高感度検出、2)ダイオキシン起源物質(有機塩素化合物)の真空紫外レーザー光化学である。レーザーの有利な点を最も生かせるのは第一の課題であり、本研究の主な成果は第一の課題で得られた。以下に得られた成果を述べる。
1)現在ダイオキシン類の検出には多大の労力が必要である。ダイオキシン類の量はその起源分子(多塩素化フェノール等)と1次の相関があることが知られており、起源分子の量からダイオキシンの濃度を推定することが出来る。レーザーイオン化法を用いることにより感度を格段に向上できることが期待されるが、従来のレーザーを用いたイオン化検出では起源物質である多塩素化合物のイオン化検出は困難であった。我々は従来とは異なる、フェムト秒パルスを用いた新しいイオン化法、「光の電場による電子剥ぎ取りイオン化法」又は「非共鳴多光子イオン化法」を導入した。この方法で有機化合物をイオン化するとナノ秒パルスを用いた場合に比べて圧倒的に親イオンが優勢的に生成すると言われてきた。しかし、化合物によって結果に大きな相違があり、親イオンを生成するもの、一部分解してしまうもの、親イオンが全く検出されないものと様々であり、その理由も様々に提案されてきたが、決定的な理由は不明であった。微量検出に向けては親イオンを優勢的に生成することが必要不可欠であり、まずこの問題について検討した。その結果、イオン化により生成したイオンがレーザーパルスの後半で光を多数吸収し分解することが原因であることが分かった。極めて単純な理由ではあるが、明確に指摘したのは我々が初めてである。この知見を得て、20種類以上の有機塩素化合物についてイオン化を試みた。その結果、芳香族塩素化合物では期待どおり親イオンが優勢に生成した。特に従来の方法では検出不可能であったダイオキシンの起源物質と考えられている、塩素が5つ以上付加した芳香族化合物のイオン化に初めて成功した。また多塩素化合物においてもイオンの吸収とイオン生成収率には前述の通りの相関があることが明らかになったが、不飽和、飽和脂肪族塩素化合物ではイオンの吸収がないのにもかかわらず分解することも新たに明らかとなった。この事を検討するため有機塩素化合物の対照として有機フッ素化合物、かつイオンの吸収がレーザーの波長にないハロゲン化メタンを検討した。結果、結合の強固なフッ素化合物においても3以上の置換では親イオンは生成せず、2個ではフッ素の場合親イオンが、1個では塩素でも親イオンが生成した。つまり不飽和、飽和にかかわらず、脂肪族ハロゲン化化合物ではイオンの吸収以外にも決定的な要因があることは明らかである。イオンの安定性、つまり最初の非共鳴多光子イオン化の過程でイオン化がイオンの解離的ポテンシャルで起こることが分解の原因である可能性が高い。芳香族多塩素化合物のイオン化には成功したが、今後はイオンの吸収がなく、また余剰エネルギーを与えることなくイオン化する条件が必要で、これには最適な波長を選ぶことが必要条件である。つまり次の段階としては波長可変かつ、より短パルスのレーザーを用いることにより、種々の物質に対し高効率の親イオン検出が達成できると考えられる。
2)800℃以下の燃焼や電気集塵器での飛灰上300℃でダイオキシン濃度が増大することが知られているが、どのように反応し、そして生成するかについてはいまだ推定の域を出ない。また現在のところ、拡散してしまったダイオキシン類は太陽光と微生物の力による自然分解を待つしかないとされている。従来の紫外線照射の分解実験では溶液中で単に光照射し、分解された量を測定するのみであり、重要な気相での詳細な実験は報告されていない。一般に真空紫外光を用いた気相でのレーザー励起では分子の高温状態(ホット分子、数千度K)を作りだすことが出来る。本研究ではレーザー励起によりダイオキシンの起源分子であるポリクロロベンゼン、ポリクロロフェノール、ポリクロロエーテルなどの起源分子の高温状態を発生させ、その光分解の様子を過渡吸収法に詳しく追跡した。結果、一部の分子は期待どうりホット分子となり、期待どうり高温反応により塩素の脱離が観測された。しかしながら、同時にその他の経路、つまり直接、あるいは前期解離による反応が生じ、高温反応だけを論じることは困難であった。しかし、気相での分解過程の一つの典型例を提示することが出来た。今後、生成物の定量、定性分析と併せることにより、確度の高い生成過程、分解の機構を得ることが出来ると期待できる。